小池真理子さんのエッセイ。亡くなった人が姿を変えて現れるとき。

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毎週土曜日の朝日新聞の週末別冊版「be」

小池真理子さんのエッセイが連載中で、今回で35回目。

小池さんは大好きな作家の1人です。

 

夜に現れた蛾

小池さんは昨年の1月に夫ある藤田宜永さんをガンで亡くされました。藤田さんも直木賞受賞の恋愛小説家です。

軽井沢からの心境を綴ったエッセイのタイトルは「月夜の森の梟(フクロウ)」

今回は、深夜に大きな蛾が現れたという話。突然リビングに現れた白い蛾が猫たちをからかうように飛んでいたというのです。

こんな寒い時期に、しかも軽井沢で蛾が現れることなんかあり得ない。もしかすると、白い蛾に姿を変えて遊びにきてくれたのかもしれないと。

わたしも、よく思います。

いまでも思います。

羽根をつけた虫が飛び込んでくると、もしかしてって。

死んだ人は羽根をつけるのです。

姿を変えても、この世にいてほしいと願う気持ち。

愛した人との思い出。

愛し合った人がこの世から消えるといのは、本当に寂しい。

寂しいなんて言葉で片付けられるようなものではないです。そんな言葉しか思いつかない自分が情けない。

たとえ手の届く場所にいなくても、愛した人は生きているだけでいい。そばにいなくても、どこかで生きていてほしい。

そんなことを思いながら、毎週の記事を読んでいます。

愛されたという記憶より、愛したという記憶は消えないというか、より強い記憶。63年生きてきて、実感していることの1つです。

 

時間の不思議

2日連続で夜中に目が覚めました。

両日ともに「もう朝かな」と思ったら、まだ午前3時前でした。

この時間は微妙です。

起き出すには、あまりに早い。4時を過ぎていたら、起き出してもいいのだけれど。

時間って、なんだろう・・・。

まだ暗い部屋の、ぬくぬくしたベッドの中で思いを巡らせます。

たぶん、わたしたちは不思議な世界に存在しています。

わたしも猫も、生きているものは、すべて瞬間を積み上げているだけ。

捕まえることのできない時間という概念(?)

「今」、ここで寝ているわたし。

「今」って、どういうことなのでしょう。

一説によると「今」というのは約3秒間くらいのことらしいのですが、とすると、わたしは1日に約2万回の「今」を積んでいるということになります。

2万回の「今」。

どれだけの「今」を記憶しているかといえば、ほとんど記憶には残っていない。

わずか10分前のことだって、何をしていたのか、定かではありません。

そしてある時「今」がなくなる。

ふと、立ち止まって考えてみると、そういう目に見えない何かに包まれて生きているって、ものすごく不思議な感触です。

考えだすとキリがありません。

 

わたしって?

過去のわたしってなんなのでしょう。

実態のない「わたし」。

記憶の中にしかいない「わたし」。

そしてわたしの記憶にある「わたし」と、だれかの記憶の中にある「わたし」はたぶん違います

たくさんの「わたし」が存在しているのです。

じゃあ「わたし」って誰?

たぶん、今、この瞬間に、ここにいる物体が「わたし」。

「わたし」が消えると、この世界は消滅してしまいます。

 

夫の時間、わたしの時間

時間というものについて、よく考えるようになりました。

夫が生きた38年。

わたしが生きてきた63年。

その時間にどれほどの違いがあるのか。

26年の違いは、それほどの違いなのか。夫より長く生きて、どういう意味があったのか、あるのか。しようもないことを考えることもあります。

そして時間の重さというものは、あまり変わらないのかもしれないと思うようになりました。

そう思いたいのかもしれません。そう思うとき、わたしの中にはいいようのない悔しさを感じてしまうのです。

悲しいんじゃなくて、悔しい。夫に割り当てられた時間が少なかったと思っているからなのでしょうか。

何歳までなら納得できるのかといえば、それもわからない。

わかろうとしているつもりです。

短く生きても、長く生きても、「どう生きたか」だけが大事なことだと。

「今」を積むだけ。そしてある時、途切れるだけだと。

その重さは、たぶん大して変わらないということも。

時間が身体の中を通りすぎていくだけ。

それでも愛した人にだけはいつまでもこの世に存在していてほしい。そう願っているのです。たとえ姿を変えても。


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りっつんブログが本になりました。

経験談や人情話から猫話。そして実用的な老後のお金の話まで。心を込めて綴りました。

「老後のお金」など、ブログではあまり触れていない話題にもかなり踏み込んで書いているので、お手にとって頂ければ幸いです。

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6 件のコメント

  • 初めまして。
    ナカモモと申します。

    こびと株さんのブログから、りっつんさんのブログを知り
    それから密かに楽しく読ませていただいています。
    りっつんさんの書くあたたかい文章が大好きです。

    昨年末、私の父が亡くなりました。
    それから私の母は、未亡人となりました。

    母にもりっつんさんのように
    これからの人生を生きて欲しい

    そんな気持ちでりっつんさんの本を
    母にプレゼントしました。

    きっと母も、りっつんさんの本を気に入ってくれると思います。

    すてきな本に出会わせて下さり
    本当にありがとうございます。

    これからもブログの更新、楽しみにしています(^^)

    • ナカモモさん

      おはようございます。
      初めまして!
      コメント、ありがとうございます。

      こびと母です(笑)

      そう言っていただいて、とてもうれしいです。

      お母さんへも思いが届くといいなあ。

      これからもどうぞよろしくねヾ(@⌒ー⌒@)ノ

  • りっつんさん、おはようございます。
     私もあの、小池真理子さんのエッセイを「楽しみ」にしているひとりです。50年ぶりくらいにスクラップブックを買って毎週切り取って保存しています。さみしさと悲しさ、言いようのない気持ちを、おこがましいけれど代わりに言葉に置き換えてくださっているようで、毎週土曜の朝は「楽しみ」を読んで涙しています。ヘンなの。心待ちにしている、っていうのですね、こういうときは。
     ほんとうに、亡くなった人はどこに行ってしまったのでしょう。どこに居るのでしょう。子どもの頃、人が死ぬということはもう会えないことなのだと、一生懸命に理解したつもりでいたのに、それから60年ほど経って大事な人が旅立ってしまって気づいたのは、それがやはり分からないままであること。考えても考えてもどうしても分かりません。外出先から戻ってドアをあけたら、あぁお帰り、と、あのときのいつものように言ってくれないだろうかと、会えなくなって1年半の今も夢見てしまいます。
     色即是空。この世にあるもの感じるものはすべて「空」。般若心経を詠んで、何度も詠んで、何かが分からないものだろうかと彼の思い出コーナーと仏壇に向かってお経をあげる日々です。
     これからも、りっつんさんの、心にポトンと、ストンと落ちてくる文章を「楽しみ」にしています。

    • やまめさん

      おはようございます。

      あのエッセイ、小池さんの夫婦としての歩みが見えるようですよね。
      夫婦で恋愛小説を書くって、
      どういう生活なのかしらと思っていましたが、
      何か少しだけ見えるような気がして。
      わたしも土曜日心待ちグループの1人です。

      26年も経つと、夫は遠い人になってしまって。
      でも、夫がどんどん遠くなると思っていたけれど、
      最近は何か自分から近づいているような気がしてきました。

      たどり着く場所は、みんな同じ所。
      会えるといいなあ。いや、きっと会えるはず。
      と思いつつ、あの世を信じきれているわけではないです。
      信じようとしているだけ。

      「空」の正体はなんなんでしょうね。

  • りっつんさん、こんにちは。
    土曜日は、歩いてコンビニに行き朝日新聞を買います。今日もラスト1部ゲット出来ました。目的は、付録のBe。小池真理子さんのエッセイが、りっつんさんに重なります。
    世の中の、夫を見送った女性が皆同じような感慨を持たれるわけではないでしょうが、違う別れの選択をした私には羨ましい部分もあります。
    『白い蛾』は、きっと彼女と共に暮らしていたんだろうと思えます。いつまでも思い出せる人がいるということは、人生の宝物ですね。

    • しばふねさん

      こんばんは。
      小池さんのエッセイで、26年前を思い出すことがあります。

      いつまでも思い出せる人がいる。
      それは宝。
      ウン!ウン!
      確かにつらい別れも、出会った結果なのです。
      そういう意味では、うまくいかなかった恋愛も、
      宝の1つではあるかもね。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    1957年生まれの64歳(2017年に還暦を迎えた)。埼玉の片田舎で自由気ままに1人暮らしを謳歌している。 中年化した2人の息子はそれぞれ家庭を持ち、日本のどこかで生息中。 愛読書は鴨氏の書いた『方丈記』。 好きなミュージシャンは山下達郎氏と反田恭平氏。 3歩歩くとと、すべてを忘れる「とりっつん」に変身するという特技の持ち主。